2018年春の船橋市広報で、5年後の「船橋市介護医療院」開院にあたり、

市民から意見募集しているのを娘が見つけ、私に知らせてきました。

後に「なぜ私に?」と訊くと、「意見がありそうだからに決まってるじゃない」と・・・。

「ありそうだ」と分かってくれていたのですね。

早速、船橋市に意見書を送信して、秋には回答がホームページに発表されました。

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<意見の要旨>

 介護医療院は、人生の終末期を生きる方を含む、長期療養を必要とする方を受け入れる施設です。認知症の有無にかかわらず、人生を振り返って自分なりに総括しようとする「特別な時期」でもあります。そこで、従来の医療職の他に、終末期特有の実存的な痛み(スピリチュアル・ペイン)をケアするためのケアワーカーを配置していただけますよう要望いたします。

 看護師や看護助手など医療の専門職は忙しくて、個々の患者さんへゆっくり対応する時間を割けないのが現状です。そのような場にこそ「忙しくないように見える人」が必要と考え、以下の意見を申し述べます。

<意見>

医療の対象として「全人的ケア」が見落とされがち

 病気の時、あるいは人生の終末期に、人は身体的苦痛のみならず、精神的(心理的)にも社会的にも苦しみ、霊的(スピリチュアル)にも苦しみます。この霊的な苦しみを「スピリチュアル・ペイン」と呼び、全てをまとめ「全人的な痛み(Total Suffering)」と呼びます。

 私たちは人生を締めくくるにあたって、人間として全人的にケアされることが求められます。

それを「全人的ケア(Total Care)」と呼びます。

 全人的ケアを行う際にそれぞれが担当する範囲は次のようになります。

*身体的ケア……主に医師や看護師などが専門的に行います。

*精神的(心理的)ケア……主に精神科医やカウンセラーが行います。

*社会的ケア……主に医療ソーシャルワーカーが行います。

*霊的ケア……スピリチュアルケア・ワーカーの務めです。病院などで専門的トレーニングを積んで認定された者です。

 スピリチュアル・ペインは、心と魂が求める哲学的、信条的ニーズが満たされない時に湧き起こる苦しみで、例えば以下のようなものがあります。

⋆人生の報われなさ(無力感) 

⋆何のための人生だったのか

⋆孤独感、疎外感、見捨てられ感 

⋆和解できていない悔い 

⋆人生のやり残し

⋆なぜ自分がこんな病気になったのか 

⋆助からない絶望

⋆死にたくない、死ぬのが怖い

⋆死んだらどうなるのか不安

 

求められる働き

 スピリチュアル・ペインには、答えがありません。誰かが答えを与えることのできないものです。薬で助けることもできません。苦しむ人とただ「共にいて」、その声にじっと耳を傾けます。その間、両者の間に霊的(魂の)交流が起こり、言葉のやり取りが行われ、患者自身が内的空洞を埋める何かを自分で見つけることがあります。それはマニュアル化できない、人知を超えた働きです。

 寝たきりで声を発することができない方に、多くの場合、医療的な用がなければ声をかけて「ゆっくり共にいる」時間を割けないのが病院の実情です。しかし、たとえ意思疎通不能と診断された植物状態の患者専門の病院の患者でさえ、意思疎通できていると感じざるを得ない現場の看護師たちの体験が分析され、研究職の看護師によって、研究論文が一般書として著わされております。

(西村ユミ著 『語りかける身体:看護ケアの現象学』 ゆみる出版,2001)

医療現場では合理的でないかのように思われる「ゆっくり共にいる」ことが、どのように人を癒すか、例を2つ紹介します。

★小児がんになったことを受け入れられなかった少女は、自暴自棄になって医療を拒絶し、病室を訪れるどの医師とも看護師とも「寝たふりをして」口をききませんでした。そのうちに、少女はある医師を信頼するようになり、手術を受け入れました。その時に少女が医師に話した言葉が私の心に残っています。(聖路加国際病院小児科医長による)

「私、本当は寝ていたんじゃないんだよ。寝たふりして、誰が一番私のそばにいてくれるか、時間を見ていたの。寝ていて、何もしゃべらない私のそばに、〇〇先生が一番長くいてくれた。〇〇先生なら信頼できるとわかった。だから〇〇先生の手術を受けることにした!」

★「痛い、痛い!」と呻き続ける高齢の女性に、為すすべもなく寄り添っていたスピリチュアルケア師の話です。

医療的には十分に緩和されて身体的痛みはないはずと言われていても、患者さんは痛みを訴え続けたそうです(病院ではよくある)。じっとそばに寄り添っているうちに、ふと無意識に口をついて、

「子どもさんは?」

と訊いていたそうです。(これが両者の間に霊的【魂の】交流が生じた結果)

とたんに患者さんは沈黙し、その後に語り始めました。

「息子が幼い頃、病気で『痛い、痛い』と言っていた時、私は祈りました。

『この子の痛みは私が引き受けますから、この子を助けてください』と。

お陰で息子は元気になって、大人になりました。この痛みはあの時の息子の痛みです。

私が代わりになって、子どもを助けてもらえた痛みだと思うと、有難い、有難い…。」

と涙ぐまれたそうです。

 どうすることもできない痛みさえ、そばで「痛み」の訴えを聴いてくれる人がいると、

痛みが変容する…そういうことがあるようです。

 

 誰も答えを与えることのできない重苦しさに耐え「共にいる」ことが「癒し」になります。

医療施設に、先進的なこの機能が加わってこそ「全人的ケア(Total Care)」と言えます。

 寝たきりで意思の疎通がおぼつかない人でも、最期まで耳が聞こえるそうです。

 (植物人間と診断された後に意識を回復した患者が語った)

 今は何も言えない状況の人でも、声に出せない思いを持っているのでしょう。たとえ聴き取ることができなくても、心を込めて「共にいる」ことで「あなたは見捨てられていませんよ」というメッセージを与えることになり、とりもなおさずそれは、今は何も話せなくなった患者さんの人格と存在を承認する行為です。

 勿論、話せない人のために全人的ケアをと望んでいるのではありません。全ての患者さんに全人的ケアが必要ですが、とりわけ終末期の方は、内的対話によって霊的に著しく目覚め、成熟が促進される時期だからこそ、内的世界から発するきわめて個人的なことを、傍らで聴いてくれる人がいることで助けられ、人生の振り返りが「特別な意味」を持つことになります。

 答えのない苦しみに、助けるすべを持たない自分が「共にいる」ことは、誰にでもできる仕事ではありません。「心理職がいるから必要ない」と言われることがありますが、実存的課題に対応することは心理学を超えた働きで、相応のトレーニングを要します。簡単ではありません。

 欧米の病院では、スピリチュアルケアができる職種の人員配置が義務付けられているそうで、その配置がなければ設立する認可が下りないと聞いたことがあります。

 

配置している病院

 日本でも、数少ないものの、配置されている病院があります。私の知る限りでは以下の通りです。

亀田総合病院(千葉県鴨川市)、

聖路加国際病院(東京都中央区)、

聖母病院(東京都新宿区)、

聖ヨゼフ病院(横須賀市)、

聖テレジア病院(鎌倉市)、

JA北海道厚生連 旭川厚生病院(北海道旭川市)、

東札幌病院(北海道札幌市)、

スペルマン病院(仙台市)、

聖マリア病院(姫路市)、

淀川キリスト教病院(大阪市)

イエズスの聖心(みこころ)病院(熊本市)

 

最後に

 生老病死を含む実存的課題は、宗教の違いを超えた人類共通のテーマです。

「全人的ケア(Total Care)」は先進国として日本の医療が目指すべきことだと思います。

 わが船橋市が介護医療院を創設するにあたっては、一流の医療サービスを提供する機関であってほしいと願い、意見させていただきました。

 実現可能となった暁には、必要であれば私自身を投入する意志がありますし、スピリチュアルケア・ワーカーおよびスピリチュアルケア・カウンセラー養成機関と繋がりがありますので、コーディネイトする手伝いも可能です。宜しかったらご連絡ください。

 以下の冊子を紹介します。

 「NHSにおけるスピリチュアルケア

  (NHS=National Health Services <イギリス>国家医療制度)

  医療を委託する関係機関(purehasers)と、

  委託されている医療機関(providers)へのガイド)」

     (帯書き)スピリチュアルケアって?

  真のスピリチュアルケアをしたい医師・看護師・MSW・臨床心理士・チャプレンなどに贈る!

  近代ホスピスの創始者 シシリー・ソンダース女史推薦による

     イギリスにおける国家医療制度(NHS)公式ガイドブック」

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(2018年11月28日)

船橋市に提案した意見に対して、以下のように市の考え方がホームページに掲載されておりました

意見提出者:2名

意見数: 3件

③介護医療院では、看取り、ターミナ ルケアの機能も備えておりますが、終末期の方を専門とした施設ではなく、 長期の療養を必要とする要介護者に対し、長期療養のための医療と日常生活 上の世話(介護)を一体的に提供する施設となっております。 基準省令では、介護医療院がその目的を達成するために必要な最低限の基 準を定めたものとなっておりますので、本市の条例(案)におきましても、 基準省令と同様の人員基準といたしま す。 なお、基準省令第4条第1項第9号 において、その他の従業者は介護医療院の実情に応じた適当数としておりま すので、必要に応じて各施設が、ご意見にあるようなケアワーカーを配置することは可能です。

以上

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(2018年現在)5年後に向けて、見守り続けたいと思っております。

天の計らいによって必要とされた時には、セラピーの仕事を主としながら、

全身全霊で協力できるよう自分を育てておきたいと思います。