刑務所から出てきた人が、あるいは少年院から出てきた人が職場に入ってきたら、

どんな気持ちになりますか? 身構えませんか? 優しく・・・し続けられますか?

 

ホームレスの子として生まれ、電気も水道もない掘立小屋を住み家として育った少年は、

学校でもさんざんな差別を受け、ぐれた挙句に暴走族の総長になっていました。

感情をコントロールできなくて、よく殴る父。

生きていてもつまらない、俺なんか生まれて来なければよかった・・・

生きる意味を見失った彼に、病気で働けない父が言いました。

「教会に行ってみたら?」 (高橋:どこから「教会」が出てきたの?お父さん)

 

教会に行ったら、障害者福祉の仕事を紹介され、

そこで よだれを垂らして寝たきりの重複障害を持つ男性Sさんに出会いました。

ショックでした! こんな人もいるんだ。こうして生きている人もいる!

うまく言葉を発することができないSさんと何度も一緒にいるうちに心が通じ、

Sさんに自分のみじめな生い立ちを話してみました。

「・・・俺なんか、何のために生まれてきたかわからない・・・生きていたって・・・」

そこでSさんが、必死に言葉を発しようとしてくれました。

僕のような人が生きていける場所を作ってください。君ならできる。」

 

そう言われたパンチパーマの元総長は、それからどうしたか?

それを仕事にすると決めました。

介護福祉士の資格を取り、(後にケアマネージャーの資格を取り)、

そればかりか牧師になりました。

 

現在は、主任ケアマネージャーとして

NPO法人「ホッとスペース中原」という、【共に生きる家】を作り、

誕生から最期の日まで地域社会で安心して暮らせるようトータルサポートをしております。

代表 佐々木 炎さん(本名)その人です。

そこは文字通り「ホッとする居場所」で、高齢者は大切に介護され、

刑務所から出てきた人は、生活保護を受けながら(ホッとスペースを手伝いながら)学び、

介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士などの資格を取って、そこで働いています。

つまり生活保護費は最大限に有効活用され、就職という自立を支援することによって

彼らを生活保護から脱却させることができます。

 

少年院から出たばかりの人は、その後の生き方を探すのを支えてもらっています。

少年は言いました。

「ここで初めて、自分が必要とされているのを感じます。

両親の虐待から逃れて、食べて生きるために窃盗をしなければならなかった・・・

生きるために身を守らなければならなかった・・・

生きていたってつまらない。生きる意味がわからない。生まれてこなければよかった。

でも今、ホッとスペース中原に住まわせてもらって、皆に受け入れてもらって、

手伝いを頼まれて、初めて居場所を得た。

時には代表が講演するのに同行して、一緒に登壇して自分の気持ちを言わされる

まるで、こんな自分の非行歴にさえ価値があるかのように扱われて・・・。」

少年は今、中退した高校への復学を考えています。人間への信頼を回復して。

 

非行歴の陰にあったスピリチュアル・ペイン(魂の痛み)を聴かせていただきました。

とかく非行・犯罪などの目に見える「行動」にばかり私たちは着目しがちですが、

佐々木さんは、その陰に隠れた「誰にも聞いてもらえなかった思い」や

彼が持っていたのに誰にも気づいてもらえなかった「賜物(たまもの)に光を当てます。

 

白いお粉で刑務所に入った人も、窃盗しなければ生きられなかった人も、

それぞれの賜物(生まれながらに持っている善き資質)を活かせるように応援されます。

そこにいる誰もが、最も善い介護を受け、最も必要な手助けを受けられるのは、

スタッフ同士が温かい関係でつながっているからだそうです。

ある看護師が佐々木さんに質問しました。

スタッフ同士が温かい関係で仕事できるのはどうしてですか?(医療の場は厳しい)」

「誰が入って来ても、まず【自分の弱み】を皆の前で話します。弱さを知ってもらって、

 受け入れてもらって、互いに了解しあってこそ安心して働けます。

 私がホームレスの子だということも、差別されたことも、

 学校の成績が1と2しかとっていなかったことも皆が知っています。

 一人ひとりに弱さがあることが全体の助けになります。」・・・この発想!!

 

資格を取って、自立して生きられるられように支援しても、

刑務所上がりの人を差別なく受け入れてくれる職場を見つけるのは難しいでしょう?

差別され、警戒され、陰口をたたかれ・・つぶれてしまうのは もったいない。

佐々木さんはそれを自ら「創る」ことで実現しました。

代表自らが、最も低い立場に置かれた人の気持ちがわかるから、

最も弱い所に置かれたその人にも、賜物があると信じられます

虐げられ、低いところに置かれてきた人こそ、

「質の高いホスピタリティの提供」は一層 やり甲斐に直結するのでしょう。

仕事が生きる喜びになります。

 

佐々木さんは、主任ケアマネージャーとして名だたる方々の人生の締めくくりを支え、

介護福祉の学校や、学会などの学びの場に講演に招かれて、全国を飛び回っております。

 

ご自分のお子さんが不登校になったのを機に、登校できない子どもたちの居場所も創りました。

(牧師として)教義は教えない。行動で示す。」と、きっぱり言います。

その在り方・・・本当に自信のある人の言葉だと思いました。尊敬します。

縁あって今年は2度もお目にかかりました。

パンチの利いたよく響く声でジョークを飛ばす、魅力的な人です。

学校の成績は1と2しかとったことがないという佐々木さんが、

素晴らしい本を書かれました。

どん底から見える希望の光』――共に生きる福祉ケアの実践――キリスト新聞社

一人ひとりから教えられたこと、約30編(30人との出会い)

どん底から見えたものとは・・・?

何が、どん底にいた佐々木さんを立ち上がらせたのか? 感動して読み終えました。